この夜の間、夜が明けるまでに、どれだけの生き物が生まれ、死んでいるのだろう。
産声と断末魔が夜空に響き、ハーモニーを奏でる。わたしたちはいつも、その音波の中にいるのだ。生と死の奏でる音楽に、この身を浸しているのだ。生きているだけで、宇宙の奏でる音楽を聴いているのだ。
音を奏でる人工物の電源をオフにしたら、様々な生き物たちが生きている中で奏でる音が、わたしたちを励ましてくれる。みんな、必死に生きている。助け合いながら、時には同胞を殺しながら。食べ物がないだけでグッピーは共食いをするのに、人間は共食いをしてはいけないなんて、どうしてだろうね。お金なんてものは、人間が作り出したもので、他の生き物には通用しないし、あの世には持っていけないんだよ。死んだら使えないものを、必死に稼ぐことに、何の意味があるのだろう。
わたしだって、この夜の間に、永眠するかもしれない。苦しみながら死へ近づいていくのは、恐ろしすぎる。眠っている間に、苦しまずに、命を手放すことができたなら、どんなに良いだろう。死ぬその瞬間に意識があることほど、残酷なことはないよ。走馬灯なんて、見たくもない。
人は死んだ後、全ての人に忘れ去られたら、存在しなかったことになるんじゃないか。数多の人間が、歴史に名を残すことなく、忘れ去られている。そんな人ほど、人類史を支えてきたのだろう。どんなに優れた指導者のいる国でも、民衆がいなければ成り立たないんだ。
あなたもわたしも、人類史にとって、欠かせない人間なんだよ。生きているだけで良いんだ。この夜の間、夜が明けるまでに、生まれる人も、生きていて、起きている人も、寝ている人も、死んでいく人も、かけがえのない人間なんだ。いつかみんな宇宙へ溶けていく。死んだらお星様になるっていうのは、あながち間違いではないよ。生きてるだけで歴史に影響を及ぼしていることを思えば、生きれるだけ生きてやろうと思える。
あなただって、この夜の間に、永眠するかもしれない。たとえそうなったとしても、寂しくなんかないよ。あなたは宇宙に溶けていくだけ、お星様になるだけ。だからわたしが命を手放した時、どうか悲しまないで。わたしはこの宇宙に、存在し続けるのだから。どうかわたしのこと、覚えていて。
おやすみ、宇宙。おやすみ、地球。おやすみ、世界。おやすみ、世界中の生き物たち。おやすみ、人類。
おやすみ、かけがえのない、たったひとりの、あなた。